職場においては働く人の信頼関係が重要です。これまでの経験や志向の共通点がある場合や、共通の目標への到達イメージが同じ場合は、特に意識することなく信頼感が相互に高まっていくこともあります。しかし、同じ空間で仕事に向かっていてもなかなかスムーズに信頼関係が築けないことも多々あります。組織行動学の視点から、「信頼」について考えてみます。
信頼とは
「信頼」という言葉の辞書的な意味は、「信じて頼りにする」「頼りになると信じる」です。
組織行動学の文脈で「信頼」をとらえなおすと、さらに広い意味での解釈になります。カルガリー大学の心理学の研究者S. D. Boon氏等による論文“The Dynamics of Interpersonal Trust”では、「相手がの言動や判断に対して、事の成り行きを伺うのではなく、なにかしら有意な言動をしてくれるであろうという前向きな期待」と定義されています。
日常の業務において「信頼できる」という場合には、相手のこれまでの言動に対する知識など「知っている」ことによる親密さが含まれています。信頼関係を築くのに一定の時間がかかるのは、相手に対する一定の情報を蓄積しなければ、「信じて大丈夫」だという判断を自分自身が下すことができないためです。また、こうした親密さとは相反するリスクの要素を「信頼」には含まれています。つまり、「信じて頼りにして大丈夫だろう」という判断には、一定のリスクを冒すことを許容しているという側面があります。信頼することによるリスクをとる覚悟があらゆる信頼関係には共通して含まれているといえます。
信頼の源になる要素
信頼を生み出すもとになる要素は主に5つに分けられます。まず1番根底にあるのが、誠実性。道徳観や物事や人への向き合い方などの基本的な姿勢から誠実さが感じられるかどうかです。この基本的な誠意が感じられなければ、他の要素があったとしても相手が信頼感を抱くことは難しくなります。2つ目は、能力。技術的、専門的な知識やスキル、対人的なコミュニケーション力です。マネジャーの場合は、特に起きている事象や問題に対して「しっかり対処してくれる」という問題解決能力があるということを部下や関わる人に認識してもらう必要があります。3つ目は、一貫性。状況に応じて判断をする中で、一見以前の対応とは別の方法をとっているとしても、判断や考え方の一貫性を示すことで、周囲の人は状況や対応への理解が進みます。特に部下の場合は、上司に矛盾点を見出すと不安に感じることも多いため、言動や対応の背景を説明して、一貫しているものを見出してもらうような働きかけを行うことが求められます。4つ目は、相手に対するコミットメントです。相手のことを考え、相手のパフォーマンスのために自ら考え行動しようという気持ちが伝わることで、相手も信頼をしようという気持ちがわいてきます。最後の要素は、オープンマインドであること。仕事を進める上では、マネジャーは部下を混乱させないために、情報の伝え方や伝えるタイミングを配慮するものですが、「情報を隠している」と部下が感じるようでは、不安や猜疑心を抱くことにつながります。状況の見立てや自分自身の気持ちを積極的に伝えることで、相手も自分の情報を伝えても大丈夫だという気持ちをもつことができます。
信頼関係を作るために意識したいこと
信頼の源となる5つの要素に加えて、組織の長として意識したいことがあります。1つは、公正であること。集団やチームを率いる立場である以上、様々なメンバーと関わりますが、可能な限り客観的な視点で、公正さを意識した言動をとることが必要です。また、日々の業務の中で部下と話をしたことをしっかり覚えておき、約束をしたことをきちんと果たすことでも「頼りがいがある」と感じ、信頼関係の構築につながります。最後に、情報や判断を伝えるときに、感情も言葉に出して伝えることです。マネジャー自身が、チャレンジングな目標に向かって「なんとか達成したい」と思っている、ということや、仮にベストな手が打てないときにも「本当はもっといいやり方がしたいが、今できることはこれだと思っている」など気持ちを伝えることで、自然と人間らしさが伝わり一緒のチームで取り組んでいるという親密さが高まっていきます。
参考:「組織行動のマネジメント」スティーブンP.ロビンス (ダイヤモンド社)
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